今週のお品書き

  「お正月」


今年の正月はチョー最低。大晦日から5日まで、家族で出かけたのは、川崎大師の初詣だけ。あとはただひたすらテレビ見ながら、食っちゃ寝状態。体重、思いっきり増えちゃったじゃん。パパが失業なんかするからだよ。親戚は寄り付かなくなるし、お年玉ももらえないしさ。哀れな17歳だよ。
 

去年はサイコーだったよね。パパの会社、すごい売上を伸ばしてさ。ボーナスたくさん出て、クリスマスはホテルでディナーだもんな。そして極めつけは一家三人で初めてのハワイへゴーゴー。ワイキキの浜辺でトロピカルなジュース飲みながら、この調子だと、来年あたりはアメリカ本土に殴りこみかな、なんて想像しちゃったりして。カンペキに甘かったよ。桜が咲く時期に、パパの会社は散ってしまった。ウソでしょー。

 それからの我が家は、ハワイ旅行をしたのがまるでウソのような地味な、いや、ハッキリいってビンボーな生活に突入。パパは失業保険をもらいつつ職探し。ママはパパの仕事が見つかるまで、町工場で事務のパート。私は川で洗濯、じゃない、友だちの紹介でカラオケスタジオヘバイト。ところがここの店長ってヤツがチョー嫌なオヤジ。なにかといえばすぐ体に触ってくんの。でも私は頑張ったよ。パパに仕事が見つかれば、この地獄から抜け出せるんだと。

 だけど夏が過ぎ、秋が過ぎても、パパの仕事は見つからなかった。ママも私も「真剣になって探しているんかい!」と、マジに問い詰めても、「そのうちに見つかるさ」って、お気楽なもの。冬になる頃には、私もママも今の生活に慣れちゃっているのがコワい。

 ママは事務の腕が買われて正社員になっちゃうし、私はセクハラオヤジの攻撃に耐えたのが認められたのか、バイトのリーダーにされちゃうし。パパのお給料だけに頼っていた我が家は、二十一世紀に向かって劇的に変わろうとしているのだ。

 こうなったらさ、焦ることなんかないから、ゆっくりと自分のやりたい仕事を見つければ。パパ、まだ若いしさ。それに遠くの親戚よりも近くの他人っていうか、友だちが心配して仕事の話なんかも持ってきてくれるしね。そのうち絶対、いい仕事が見つかるって。

 寝正月にケチつけちゃったけど、こんな正月もいいかもね。ゆっくりコタツに入って、どうでもいい話するなんてこと、あと何年もないんだろうからさ。いつかは私とママとでパパをハワイにご招待してあげるから、今年もよろしく、のついでに、仕事、見つけてね。(2010.9.5)

父 42歳・アルバイト
娘 17歳・高校2年

今回の「拝啓オヤジ」についてのご意見、ご感想、ならびに常日頃の会社や世間、あるいは家族に対する愚痴・不満は、「掲示板・拝啓オヤジ」までお願いいたします。

今週のお品書き

「オバチャンパワーに支えられて」


親父さん、元気ですか? 

 先日は手作りの味噌と炭を送ってもらい、感謝です。先日の連休、職場の仲間たちと川辺でキャンプをしたんだけど、親父さんの炭で火を焚き、鍋には手作りの味噌をぶちこみ、みんなで盛り上がりました。評判は上々、味噌のうまさには俺だけじゃなく、女性たちもびっくりしてたよ。だいぶ腕をあげたじゃん。これならお袋さんも合格点を付けるに違いないはずだ。きっと喜んでるよ、天国でさ。

 

 早いもんだな、お袋さんが亡くなってもう5年だもんな。その当時の親父さんの無気力ぶりといったら、そりゃあひどかった。何を話してもうわのそら、物忘れはひどいし、家に閉じこもってばかりで、誰もが後追いするんじゃないか、病気になるんじゃないかと話てたほどだもんな。息子としてもどうしていいか分からなかった。

 

 だけど、親父さんの幼馴染みの住職の「お前の女房はお前の心のなかに引っ越しただけだ。いつまでくよくよしているか。心のなかに住んでいる女房に孝行せんかい」っていう一言で、みんなが救われた気がしたよ。そうだ、お袋さんは、みんなの心のなかに引越ししただけなんだよ。

 

 それからだよな、親父さんもようやく元気になって、お袋さん孝行し始めた。お袋さん自身が好きで、みんなも好きだった手作り味噌を作り始めたし、お袋さんが生前に憧れていた炭焼きにも挑戦した。ホっとしたよ、定年退職した後のこと、心配してたからな、お袋さん。

 

 だけど、変われば変わるもんだね。炭焼きはともかく、味噌作りなんて女のするもんだと、見向きもしなかった親父さんが、他のどのオバちゃんたちよりも熱心に習っているんだから。俺としては楽しみだね。仕事人間から遊び人に変わって欲しい。

 

 謹厳実直を絵に描いたような教師。

何事も「らしく」「すべき」を追い求め、それを人にも求めた親父さん。尊敬の念が次第に重荷に変わり、ついには家を飛び出した親不幸息子。その息子は都会に出て荒れ狂った生活を送り、やがてはドン底生活。そのドン底を救ってくれたのがパン屋を営むオバちゃんたちだった。なんとか一人前のパン職人になれたのも、この人たちのおかげなんだ。改めて思うよ、女性たちの力は凄いって。

 

 親父さんもオバちゃんたちにもっともっと揉まれるべきだね。考えが変われば顔つきも柔らかくなるよ。その柔和な顔つきに人も寄ってくる。一番喜ぶのはお袋さんだ。親父さんの心のなかで、きっと人々と会話しているに違いない。そのときに人々は感じるんじゃないかな、お袋さんの面影を。だからこれからもお袋さんの味を守りつつ、体を大切にし、長生きしてください。(2010・9・12)

親父 教師:52歳

息子 パン職人:30歳

 

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今週のお品書き

  バーベキューパーティ

 このあいだの多摩川でのバーベキューパーティー、なにあれ。バーベキューまではよかったけど、お酒が入った途端、お父さん連中、ベロンベロンになって言いたい放題。

 

 

 まあ、日頃のストレスを解消するためのパーティだから、会社や上司の悪口、リストラがどうのこうの、政治への不満、この際だから吠えまくってちょうだいよ。だけど、自分たちの娘や息子たちに、「キミらの世代はナニを考えているんかね」ってのは、ただの酔っ払いオヤジの領域。

 

 いっつも同じパターン。「ワシらが若い頃は政治、権力と必死に戦ったのに、キミらときら」。まさか、会社の部下にこんなセリフ吐いてないでしょうね。ほとんど馬鹿にされるだけだよ。それにさ、権力とか政治と戦ったって言うけど、それでどうしたの。世の中、良くなったの? ほとんど変わんないじゃん。それよかひどくなってんじゃん。

 

 ガングロ、厚底靴、それがどないしたん? お父さんたちのヒッピー世代のメークやファッション、あれはどうなのさ。サイケっていうの?顔に変なメークしたり、パンタロン、ロンドンブーツ。今とあんまし変化ないよ。

 

 今、通っている高校にさ、好きな先生がいるんだ。お父さんとほぼ同じ年齢。この先生も学生運動やってたらしい。でも自慢なんかしないよ。それに私たちを批判もしないし。ただね、学校でも家庭でも社会でも、おかしいと思ったら声をあげろ、たった一人でもそのおかしい点追求しろって、いつも言うよ。追及することで相手も自分も傷つくけど、理解もし合えるんだって。この先生の授業はいつも静か。みんなマジになって話を聞くんだ。頭は薄いし、身長も低いし、服装だって地味。だけど人気者。なぜだか分かる?

 クラスの連中と話したんだ、なんでこの先生って人気あるんだろうって。とくに男子に。そしたら男子がこういったんだ。「あのセンコーって自分をごまかさないじゃん。校長とか教頭にゴマすってないし、成績のいい奴、悪い奴の区別しないし、

誰の話もマジに聞くしな」。

 そうなんだよ、お父さんたちから見たら、私たちって頼りなく馬鹿みたいに見えるかも知れないけど、本物の大人かどうかは判断がつくよ。偽者の大人にマジに付き合うほど馬鹿じゃない。マジな本物の大人にはこっちだってマジになるよ。

お父さんの発言のすべてが間違いとは言わない。だけど行動が伴わないし、信念ってもんが感じられない。嫌いな上司がいるんなら戦えばいいじゃん。戦わないでグチるか諦めるしかないから軽いんだよ。クビになったっていいじゃん、そんな会社、本物じゃないから長続きしないって。本物を目指そうよ、お互いにさ。

(9月19日)

親父 50歳:広告代理店

娘 17歳:高校2年

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今週のお品書き

  私の恋人、飛行機に乗ってくださいネ

 元気ですか、オヤジさん。
 電話でオヤジさんの声を聞いたのは、確か一カ月前かな。元気そうだったので安心しました。新しいお弟子さんが入ったんだってね。私と同い年の女性だって聞いてビックリ。彼女を私だと思って、厳しくも優しくマッサージ術を教えてあげてください。


 私は相変らずハードな毎日を過ごしてます。旅客機の整備は緊張の連続で、帰宅するとしばらくは放心状態。気持ちが落ち着いてから夕食の支度、食事、入浴。そして就寝前に一人で今日一日の反省会。上司から受けた注意や自分で気づいた点を日記に記し、明日の作業確認をしてからようやく夢の世界に羽ばたきます。


 休日も同じようなもの。溜まった洗濯ものをまとめて洗い、掃除をし、更なる上の資格を目指して勉強。だから結婚はおろか、恋人だって見つける暇などありません。親不幸な娘で申し訳ない。


 でもね、飛行機の魅力を教えてくれたのはオヤジさんですからね。子供の頃から飛行機に憧れ、パイロットを目指して猛勉強したものの、青年時代に強度の弱視になってパイロットを断念。マッサージ師の資格を取得し、同じくマッサージ師をしていたオフクロさんと結婚。「男の子が生まれたら絶対にパイロットにするんだ」と張り切っていたのに、生まれてきたのは女の私。スンマセン。


 私が小学校に入学した頃かな、完全に視力を失ったオヤジさんの手を引いて、よく散歩をしたよね。そのとき、上空を飛んでいる飛行機の音を聞いて、「いいな、飛行機っていいよな」って、何度もつぶやいてたっけ。また、旅行で旅客機に乗るときも、機体に頬ずりして、「ああ、空の匂いがするよ」って。これってひどいよ。そんな姿を見せられたら、男の子じゃなくても考えちゃうよ。オヤジさんが喜ぶ、飛行機関係の仕事に就いてやろうって。


 かくして、私が選んだのは航空整備士の道。パイロットは視力で、客室乗務員は容姿でハネられるのが分かってたからさ。だけどオヤジさんったら「航空整備士だ? 冗談は顔だけにしとけ」って、鼻でせせら笑ったよね。これで私の負けん気に火がついたんだよ。今にして思えば、オヤジさんの策略に乗せられたような気がするけど。


 でも、整備士の道を選んで正解。私の性に合ってます。自分が点検・整備した機体が無事に戻ってきたときは、オヤジさんと同じく頬ずりしちゃうし、空の匂いも感じます。そう、目下の恋人はこいつ、機体だね。


 オヤジさん、今度、オフクロさんと一緒に、羽田まで泊りがけで遊びにきてください。骨まで溶けそうなマッサージお願い、お礼に私が整備した恋人に乗せてあげるからさ。

(9月26日)

親父 64歳:マッサージ師
娘 29歳:航空整備士