今週のお品書き

  東京に行ってくるよ

 親父さんへ。手紙を書くなんて、小学校で父の日に書いて以来ですが、読んでください。
 いろいろ考えたけど、やはり東京に出て働いてみます。このまま田舎に残り、のんびりと親子で個人タクシーをやるのも悪くはないと思う。でも、それでいいんだろうか。まだ若いのに、へんに落ち着いていいんだろうか。そんな考えが頭から離れないんだ。


 友だちの多くが東京の会社に就職し、厳しいながらもいきいきとした社会人生活を送っている。そんな話を聞くたびに、自分が情けなく、寂しい思いにさせられる。俺だけが取り残されていくようでね。


 東京の生活が甘くないことは、親父さんから何度も聞いて理解しているつもりだ。病弱の俺がどれだけ耐えられるのか、俺も自信がない。だけどそれでも東京に出てみたいんだ。俺が知らなかった自分に出会えるかもしれない。隠された可能性を見つけられるかもしれない。人生を変える人に出会うかもしれない。逆に何も得られず、傷つくだけで田舎に戻ってくるかもしれない。それでもいいいんだ。戻るときは田舎を、そして親父さん、お袋さんを違った目でみられそうだから。


 親父さんが東京に出稼ぎに出たのは、俺が小学校のときだった。田舎に帰ってくるのは正月と盆だけ。寂しかったな。友だちは自分の父親とキャッチボールやドライブなんかを楽しんでいるのに、俺はお袋さんと畑仕事で汗を流してた。そのとき、親父さんを恨んだもんだ。親父さんがしっかりしていれば、俺もお袋さんもこんな苦労しなくて済むのに。寂しい思いをしなくて済むのにと。だけど仕方ないよな。仕事が無いんだから。親父さんだって行きたくて東京に行ったんじゃないよな。田舎に帰ってくるたびに「もう東京には戻りたくない」と。そのときから、東京に怖さと憧れを持っのかもな。


 とりあえず、叔父さんの町工場で働いてみる。タクシーの運転手は慣れるまで大変だっていうから。俺は今から緊張しているんだ。東京っていう、得体の知れない怪物に戦いを挑む心境ってとこかな。負けるかもしれないが、勝つかもしれない。運命を楽しんでみるもりだ。


 実は死んだ兄貴も、親父さんには言わなかったけど、東京に憧れてた。兄貴の代理という気持ちもあるんだ。怖いけど、心配はしていない。心のなかには兄貴がいるし、見守ってくれているに違いないからさ。兄貴の分まで頑張ってみるよ。


 勝手なことばかりしてご免な。もうしばらく好き勝手を許してほしい。必ず親孝行はするから。しないとそれこそ兄貴に叱られるもんな。(2010年11月7日)

親父 55歳・個人タクシー
息子 25歳・鉄工所





今週のお品書き

  どうしても会社勤めがしたいの


お父さん、お元気ですか。
 今年も残すところ、あと僅かとなりましたね。できることなら再就職先を決め、田舎でのんびりと新たなし年を迎えたかったのですが、無理のようです。

 送った履歴書は百枚を超えたでしょうか。面接を受けた会社は40社近くになります。だけど採用通知は今だにどこからも届かず。ヘコんでしまいそうです。なかには書類審査を通り、一次面接、筆記試験もいい感じでパス。社長立会いの最終面接までこぎつけたこともあったのですが、土壇場で見事にコケてしまいました。


「好印象を持たれたいのなら、気配りが大切」。こんなことが就職雑誌に書かれてあり、手土産を持参した人が採用されたとのこと。これをそのまま実行に移しただけなのに。面接官にこっぴどく言われちゃいましたよ。「キミね、面接にお菓子のお土産なんて非常識だと思わないのか。そんなことをした人は初めてだよ。それにウチの社長は甘いものが大嫌いなんだ。草加せんべいとかなら、話は違うけど」。草加せんべいなら合格だったのか?


他にこんなこともありました。これまでにない新しいタイプのエステ技術を持った会社が、広報担当者を募集というので面接に。行ったはいいけど、その場で服を脱がされて、ミョーなローションを体中に塗りまくり。そして一週間後にまた面接をするとのこと。それで一週間して際訪問したんです。前と同様、服を目がされ、体中を女性社員にジロジロ見られたあげく「異常なし。これなら大丈夫そうね」だって。大丈夫そうねって、オイオイ、私はモルモットかよ? キレてその会社、飛び出しましたよ。ホント、思い出しただけでもムカつく。


 こんな調子なんです。毎日が。いっそのこと、田舎に帰ってお父さんの仕事の手伝いでもしつつ、お気楽な生活でもしようかなと考えることもありますよ。そのほうがお父さんだって安心でしょ。鶏さん相手(養鶏業)に毎日規則正しく、健康に過ごすっていいかも。そのうちこれはという相手を見つけ、お婿さんに入ってもらう。これで我が家も安泰。というのが理想なんだろうけど。


 会社生活にまだ未練があるんですよ。大学卒業してまだ会社勤めした経験がないから。「もう会社勤めなんてコリゴリ」。こう思える日がきたら帰ります。いや、30歳になったらどんなことがあっても帰ります。約束します。嫌いじゃないですよ。作業服に長靴、軍手に帽子のカントリースタイルは。でももうしばらくの猶予をください。(2010年11月14日)

親父 58歳:養鶏業
娘 26歳:無職


今週のお品書き

  リストラされて仲間ができたね


 会社をリストラされてから、オヤジ、ちょっと変わったね。


 リストラされてからしばらくは、ヤバいくらい落ち込んでいたもんな。自殺でもすんじゃないかと思うくらい。だけど、ハローワークに行きだし、同じ立場のオジさんたちと友だちになってから、元気になったような気がする。やっぱ、友だちっていいもんだろう。


 俺の友だち、オヤジから見たら、ロクでもない奴に見えるかも知れない。ダブダブのだらしない服装、茶髪、ピアス。でも、みんないい奴ばっかだよ。誰かが悩んでいたり、苦しんでいると、必ずみんなマジに考えたり、慰めたりするもんな。たまにはガチンコのケンカもする。でもお互いにマジな関係でありたいからケンカもすんだよな。どうでもいい関係ならケンカなんてアホらしい。


 前から気になっていたんだ。オヤジって、会社にちゃんとした友だちいるのかなって。いや、会社以外の場所にも友だちっているのかなって。


 オヤジの口から出るのは、人の評価と感想だけだったような気がする。会社の誰それはランクが低いとか高いとか。俺や妹の友だちに対してもそうだった。だから俺たちはオヤジを避けるようになった。妹はオヤジが嫌がるような服装、態度をとるようになったし。家族って感じしなかったよ。いっつもケンカばっかで。このまま家族が壊れていくような気がした。だけどあの夜の光景を見てから、俺や妹の考えも変わったんだ。


 ハローワークで知り合ったオジさんとの長電話。マジで語り合っているのが、俺たちにも分かった。それから「頑張ろう、頑張ろう」って言いながら、泣き声に変わっていくのを聞いて、たまらなかったな。妹のやつ俺の部屋に入ってきて、「オヤジにも血と涙が通ってんじゃん」って生意気なことヌカしやがった。


 リストラされてからオヤジ、ちょっといい男になったな。話すときでも命令調、断定口調でなくなった。俺たちの意見も聞いてくれるような、余裕のある会話になったような気がする。それに俺たちの友だちに対しても、ちゃんと挨拶してくれるようになったし。この間なんか、ビートルズの話なんかしちゃって。みんな感心してたよ、詳しいって。なんだよ、昔はよくビートルズ聴いてたんじゃねぇか。誰だよ、ビートルズなんかくだらねぇって言ってたのは。素直じゃねぇんだよな。だけどいいよな、こんな雰囲気ってさ。昔はこんな感じだったんじゃなかったっけ。


 今度、リストラされたオジさんたちと温泉旅行だって。いいね。ゆっくり楽しんできなよ。オヤジの長い人生で今は秋休みだと思えばいい。良き友だちに巡りあえて俺も一安心。(2010年11月21日)

父 46歳・無職
息子 19歳・予備校



今週のお品書き

  オヤジギャグって、なんだかな


 「今日は朝からエビフライか。金曜日でもないのにフライデー? なんちゃってね」。
 毎朝こんなオヤジギャグで始まるんだよね、我が家は。これから一日、汗水たらして必死に頑張ろうとする矢先にこうしたギャグは、出鼻をくじくには十分といえるでしょう。


 本当にオヤジギャグが好きだよね、お父さんは。誰かが怒らないと、一日中しゃべってるもんね。会社でもそうなの? だとしたら嫌われてるかもよ。「このオヤジ、いっつもツマンねぇギャグかましやがって」って。


 オヤジギャグが悪いとは言わないよ。とげとげしい雰囲気、疲れきっているようなときなんかに、気の利いたギャグの一発でもかましてくれれば、雰囲気は和らぎますよ。疲れも消えるでしょうよ。でもそれはあくまでも気の利いたギャグ。ストレートなドロくさいギャグは逆効果。それが分かってないよ。お父さんは。


 外資系であるわが社では、つまんないギャグをかますオヤジはいなかった。ところが最近、親会社から出向してきたオジさん、これがかましてくれるんだよね、気の利いたギャグを。内容的にはどうということはないけど、センスが良いんだな。TPOに合わせたギャグをかますもん。そういえばファッシヨンセンスもいいし。お父さんとは段違い平行棒よ。


 先日、このオジさんを含めたチームで名古屋に出張したときの話。ちょっと高級そうな料理屋さんで打ち上げをしたんだ。割り勘だと思ったら、既にこのオジさんが支払い済みとのこと。みんなで辞退しようとしたら、「昔の諺に従いなさい。尾張名古屋はシロー(城)で持つ、と決まっているんだから」。そう、このオジさんの名前、シローさんなんだよね。全員、オーっと言いつつ拍手。


 シローさん、万事こんな調子。それからわが社では、気の利いたオヤジギャグを言う人を「シロってる人」と言ってます。下を向いてなにかをシロってる(拾ってる)人じゃないよ。げっ! なんか分かんないうちに、お父さんのつまらんギャグが感染したような、しないような。


 で、シローさんの話に戻るけど、誰からも好評かというと、そうでもないんだよね。特に帰国子女の社員には不評。「所詮、オヤジギャグはオヤジギャグなんだからさ、関西ふうのコテコテがいいな」とか、「私は考えてギャグを言ってます、みたいなとこが嫌味やね」だって。分かんないもんだね、人間って。

 そうか、もしかしたらお父さんの会社にも、お父さんのギャグが嫌いな人と、好きな人の両派がいるのかもね。確かにアホらしい限りのギャグだけど、どこかノホホンとさせてくれるとこがあるし。まあ、いっか。(2010年11月28日)

父 印刷:50歳
娘 商社:27歳