今週のお品書き

 メゲちゃダメ! 再出発をしよう

 
 お父さん、お父さんの工場って、もしかしたらツブれちゃうの? バイト先のコンビニの店長が「キミんとこのお父さん、これから大変だな。倒産しなきゃいいけどな」って言うからさ。「何の事ですか?」って聞いたんだ。話しを聞いてマジ、それってヤバイよって思った。

 取引先の信用組合が破綻破っていうか、ツブれた事は知ってたよ。だけどウチの工場とは関係ないと思ってた。信用組合がツブれたら、どこかの銀行と取引すればいいだけじゃんと、軽く考えていたんだ。とんでもない考え違いだったことが分かったよ。今の銀行って、そんなに甘くないんだってことがさ。昔みたいに簡単にはお金って貸してくれないんだ。ウチみたいに小さな工場はどこの銀行もお金は貸したがらないって、コンビニの店長も言ってたよ。

 そういえば私の高校でも、父親の会社が倒産したり、リストラが原因で中退する生徒が増えているって聞いたことある。他人事じゃないよな。お父さんの工場がツブれたら、大学進学どころか、毎月の授業料を払うのもシンどくなるもんね。私って成績も良くないから奨学金ももらえんだろうから、中退してバイトでもしなきゃなんないな。そうなりゃそうなったで覚悟するっきゃないか。

 私はいいんだ。困るのはお父さんや社員の人たちだよね。お父さんを含めてたった10人だけの工場だけど、会社は会社だもんね。会社がツブれたらみんなが困るよ。それぞれ家族やら小さな子供たちを抱えているんだもんね。

 「ウチの工場はもうからないけど、赤字にしたことはない」。これがお父さんの自慢だったよね。赤字を一度も出したことのない会社でも、銀行はお金を貸してくれないの? 真面目に頑張っているだけじゃ、お金は貸してくれないの? 銀行は預金する人だけがお客さんなの? こんなんじゃ、日本中の中小企業がツブれちゃうんじゃないの?

 高校に進学してからは、お父さんとは滅多に会話なんかしなかった。だけど最近のお父さんの元気の無さは、少し気がかりだったんだ。その原因が分かったよ。今まで冷たい態度をとってごめんね。これからは家族三人、なんでも話し合おうよ。

 お父さん、絶対に無理なんかしゃだめだよ。ヤケを起こすのもバツ。私は高校を中退してもバイトとかして専門学校に行くからさ。もしどこの銀行もお金を貸してくれなきゃ、社員の人たちには申し訳ないけど、会社を閉じて一から出直そうよ。お父さんの歳で再就職は難しいだろうし、貧乏が続くだろうけど、元気で明るい生活が一番だよ。それを優先させよう。メゲちゃだめだよ!(2011年1月2日)

父 48歳:工場経営者
娘 16歳:高校2年


今週のお品書き

父 52歳・地方公務員
息子 28歳・自衛隊員
 


  薩摩おごじょは敵に回すな!


 親父、もういい加減にしてくれよ。フィリピンパブの一件があってからというもの、お袋から何度電話があったと思う? この前の日曜日なんか、4時間も愚痴を聞かされたぞ。せっかくの休みを台無しにされてしまった。これもそれも親父、あんたのせいだ。

 いい歳してナニやってんだよ。それに自分の立場と仕事を考えろよ。あんた公務員だぞ。市民に対して見本となるべき姿勢を示さなきゃなんないはずじゃないのか。それなのに自分の娘みたいなフィリピーナに入れ揚げて。息子として恥ずかしいよ。
 
 公務員だから遊ぶな。そんな事を言う権利は俺にはない。俺も公務員だし、親父の歳と同じ俺の上司も遊んでいる。だけど決して深入りなんかするような事はしない。俺の欠しい経験によると、遊びには慣れが必要だし、ある種、遊びに適した性格というものがあるように思う。親父は遊びには向いてない、絶対に。

 酒、煙草、ギャンブルとは無縁。これがお袋の親父に対する自慢だ。先祖代々、公務員の家柄である我が家に、親戚の半ば強引な形の見合いで嫁ぎ、姑(婆ちゃん)のいびりにも耐え、真面目だけが取り得のあんたに尽くしてきたお袋。彼女にとっては砂を噛むような味気ない毎日でも、あんたが家庭を壊すことなく、平穏無事に仕事をこなしてくれるからこそ、我が家を守り、俺たちを育てるという生き甲斐も見出したのだと思う。それをあんたは裏切った。彼女のプライドをズタズタにした。

 兄貴の家に泊まったお袋は、一晩中、焼酎を飲みながらあんたへの恨みつらみを語ったそうだ。お袋と同じ鹿児島出身である義理の姉も「薩摩おごじょをなめとる」と、憤慨しているという。男子には絶対服従だと思っているんだろうが、面子を汚された薩摩おごじょは手強いぞ。このまま泥沼にはまっていったら、俺はどうなっても知らんからな。

 今からでも遅くはない、たった一度の過ちを、心から悔い改めてくれ。そして心からお袋に詫びてくれ。そうすれば義理の姉を始めとする女性軍も許してくれるに違いない。お袋も決して器量の狭い女じゃないことは親父、あんたが一番分かっているじゃないか。謝ってくれ、そして二度とフィリピンパブには近づかないと約束して欲しい。頼む。

 親父の態度いかんによっては、俺の結婚にも影響をもたらすことを考えて欲しい。義理の姉の紹介で見合いした婦警さん、俺は気に入っている。実は彼女も鹿児島出身。これがまた正義感も気も強い女だ。そんな彼女が親父の体たらくを知ったら。ここは己の欲望を捨て、お袋と息子たちの幸せを願うのが父親だぞ。(2011年1月9日)



今週のお品書き

  お父さんの開運哲学って奥が深い?


 お父さんって福の神。ただし、一カ月の間だけだったけどね。
 お父さんの生年月日にヒントを得て、その数字を書き込んだのがナンバーズ。当たるはずなんかないよなと思っていたら、なんとストレート当選。1000円の元手で14万円も儲かっちゃった。嘘みたいだよね。

 これはもしかしたらということで、次に狙ったのがミニロト。今度はお父さんとお母さんの結婚記念日絡みから数字を選択したところ、ゲゲゲッ、二等の27万円ゲット! 怖い。これには家族中が大騒ぎ。二度あることは三度あるということで、4億円のチャンスが巡ってきたロト6に挑戦。お父さんのこれまでの人生に関するあらゆる数字を聞き出し、50パターンを抽出。木曜日の抽選日を家族一同、心待ちにしてものです。

 ところがどっこい、世の中甘くないね。当たったのは4等の1万2000円。家族一同ガックリ。それからはことごとくハズレの連続。お父さんの数字運というか、私のクジ運もどうやらこれまでのようです。

 お酒も煙草もやらず、ましてやギャンブルには厳しいお父さん。最初のナンバーズが当たったとき、てっきり怒るのかと思ったら「ビギナーズラックなんだから、それで止めとけよ」って優しく言ったでしょ。あれって意外だったな。そしたら「お父さんも昔は競馬で大穴当てたことがあるのよ。それがもとで借金まで重ねて大変だったわ。数年かけてようやく借金を返済したけど、そのときの苦労と、ギャンブルの怖さが身にしみているのね」とは、お母さん。なんだ、お父さんも若い頃はギャンブラーだったのね。

 ひと月に約40万円の儲け。それもお父さんのお陰だから、何かプレゼントするよと言ったら、一割の4万円を要求。何に使うのか思ったら、世界の難民救済と交通遺児の団体に2万円づつ寄付したのには驚き。

 「汗水流して稼いだお金ならともかく、ギャンブルで儲けたお金の一割は、恵まれない人に寄付したほうがいい。それで運も尽きることはなくなるんだ。数年したら運も元に戻るはずだから」。それって本当?

 もしかしてお父さん、お母さんも知らないようなギャンブル体験、それも奥の深い体験をしてこなかった? それでなきゃ、こんな言葉って出てこないと思うよ。しかも「人生には小波、中波、大波という良運と、小衰、中衰、大衰という衰運が数年おきにやってくる。それをどう活かし、避けるかも大切」ってセリフも、カッコ良かったな。

 会社でも我が家でもあまり冴えない地味なお父さんだけど、ギャンブルとか人生に対しては独特の哲学を持っていることを確認。私に衰運が訪れたら適切なアドバイスお願いね。
(2011年1月16日)

父 49歳・会社員
娘 22歳・大学4年生





今週のお品書き

  「大人を逃げる」オトナばかりですね

 親父さん、元気の様子でなによりです。
 この頃は酒も控え、稽古に立ち会うことも少なくなったというので、いささか心配しておりました。でも、久しぶりの武勇伝を師範代から聞き、ほっと一安心。体力は衰えたかもしれないけど、気力は相変らずですね。

 礼儀をわきまえない若者、いや、若者に限らないね、今や老若男女に及んでいますよ、無礼な奴は。新幹線で遭遇した目に余る非常識な行為にキレたという話、よく分かります。

 後ろの座席に座った若造、こいつの携帯電話にまずキレた。携帯電話は皆の迷惑になるからデッキで使用せよとの注意にもかかわらず、延々と座席で喋っている。静かに車窓の風景を愛でたい親父さんには我慢できない行為ですね。若造に「デッキで通話しなさい」と注意したのにそいつは無視し続けたから大変。そいつの首根っこを掴んで無理やりデッキに。師範代と乗務員が止めに入り事なきを得たけど、若造は鳩尾にパンチを浴びて失神寸前。「警察に訴えてやる」という抗議も、「君が悪い」という、たまたま居合わせた弁護士に諭され、捨て台詞を残して別の車両へ移動。これにて一件落着。

 もう一人の無礼者は50代とおぼしきオヤジ。こいつは荷物を置いて二人掛けの座席を独り占め。途中の駅から乗り込んできた乗客が「ここの席、空いてますか」と聞いているのに「空いてない」。これを見ていて「空いているだろう。嘘をつくな」と男を怒鳴った。男も立ち上がり「デッキに出ろ、ジジィ」と凄むあたり、ほとんどアクションドラマですね。止める師範代を振り切り、再びデッキファイトするも、男は腕をねじ上げられて悲鳴をあげる始末。「またですか、勘弁してくださいよ、お客さん」と困惑する乗務員に対し、「こいつは二人分の座席を使用していたんだから、二人分の料金を徴収しろ」と逆に抗議したもんだから、座れない乗客から拍手喝采。男はその隙に別の車両へスタコラ。

 「大人を逃げるな」というCMが注目されたことがありますが、政治家、官僚、大企業の役員と、手本となるべき大人たちの不祥事が続いています。彼らはいずれも礼儀、礼節、常識、誠実さから逃げてばかりいます。国民に与える影響も少なくありませんし、それは無礼者、卑怯者の増加と無関係ではないでしょう。寂しい限りです。

 手本となるべき人々に期待できないとなれば、親父さんが常々説くように、市民の一人一人が「大人とは何か」を常に意識し、言動に移さなければなりません。たとえその言動によって損をし、傷ついても自らの責任は果たす。だから大人なのです。親父さんから受けたこうした精神を私なりに解釈し、若い世代、そして次の世代に伝えていく覚悟です。

(2011年1月23日)

親父 65歳・武術研究家
息子 37歳・空手道場経営



今週のお品書き

  サボテンの花が咲きました


 お父さん、お元気ですか。お父さんからもらったサボテンの鉢植え、ようやく花を咲かせましたよ。とても綺麗です。本当のことを言うと私、サボテンの花は好きじゃなかったの。辛くて嫌な思い出があったから。

 私たち家族を不幸が襲ったのは12年ほど前。証券会社に勤めるお父さんの友人から「株で儲けて女房や娘に家を買ってやれ」と勧められ、借金を重ねて株を買ったものの、それから間もなくバブル崩壊。2000万円近い借金だけが残りましたね。

 それからは毎日のように自宅、会社、親戚の家にまで借金取りが押し寄せ、お父さんは会社にいられなくなって退職。私たち家族は逃げるように見知らぬ町へと引越。その町でお父さんはパチンコ屋さんに再就職し、その家族寮で私たちは再出発を誓ったものです。だけど・・。
 「国立大学まで出た俺がなんでこんな仕事をしなきゃならないんだ」と、パチンコ屋さんの仕事を見つけてきたお母さんを怒鳴りつける毎日。ときには殴ったり、蹴ったりしたこともありましたね。我が家ではけんかが絶えることがありませんでした。

 まるで悪魔に取り付かれたようなお父さん。悲しかったな。なんて情けない、弱い、冷たい父親だろうと思いました。そんなときふと目についたのが、窓辺のサボテンの花です。こんなひどい仕打ちを受けても、お母さんはお父さんが大切にしているサボテンの世話を忘れていなかった。そんなお母さんの気持ちも知らないで、荒れ狂うお父さん。こんなサボテンなんか捨ててしまえばいいのに。こんな父親なんかとは別れてしまえばいいのにと思ったものです。

 お母さんが心労から倒れ、入院するようになってからですね、お父さんの態度が変わったのは。仕事にも真面目に取り組み、それがパチンコ屋さんの社長さんに気に入られ、借金を肩代わりしてくれました。そればかりか数年後には店長、さらには会社の役員にまで抜擢してくれました。嬉しいことにお母さんの体調も回復、私も間もなく結婚して家を出ました。辛かった日々が嘘のようです。

 私とお母さんを泣かせたこと、お父さんはずっと気にしていたんですね。ダンナ様から聞きました。リストラされて悩むダンナ様。その相談をお父さんにしたところ、あの頃の辛かった気持ち、私たちに迷惑をかけた話などをダンナ様に打ち明け「長い人生、荒れることもあるけど、真面目に働けば運が味方してくれる」と励ましてくれました。ダンナ様も「とても気が楽になったし、勇気が出た」と喜び、再就職目指して頑張っています。「愛する人が辛いときは、あなたが支えてあげなくちゃ」。サボテンの花には、お母さんのそんな想いが込められているような気がします。(2011年1月30日)

父 60歳:会社役員
娘 28歳:主婦