今週のお品書き
  勇気を出しての撤退を奨める


 「このままじゃ店を閉めるしかないかもな。ご先祖様に申し訳ない」。
 突然の上京、突然の我が家への訪問、そして弱気な言葉の数々。はっきり言って驚いたよ。店の売上が思わしくないのは分かっていたけど、ここまで親父が弱音を吐くなんて。

 小さなわが町にも、ついに酒の大型ディスカウント店がやってきた。進出にあたっては、町の小売店団体は激しく反対したけど、住民は大賛成。それはそうだよな、この不況だ、誰だって一円でも安いのは大歓迎だ。たとえ昔からの知り合いだろうが、そんなの知ったこっちゃない。安い店から買うのは当然だ。

 大型ディスカウント店に対抗すべく、価格競争やら、サービス競争に明け暮れたあげく、町の小売店の何店かが商売から撤退、なかには自己破産した店もあった。完全な敗北。
リーダーとして小売店の先頭に立ち、作戦を立てて実行してきた親父に非難が集中した。町どころか家のなかにも居ずらくなっての上京、だろうと俺なりに思う。それにしても、五代続いた酒店が潰れる寸前とは。

 下戸でギャンブルやら女遊びとは無縁の真面目な男。4代目の祖父に見込まれて婿養子入り。祖父の期待に必至に応えようと、親父は頑張った。六代目になるはずの俺にも、小学校の頃から商売人のイロハを教えてくれた。この教えが今、別の商売で役に立っているとは皮肉だが。

 小さな町と先が見えた生活、それに薄商いと頭を下げる商売が嫌で、勘当同然に上京した。以後、十本の指では数えられないほどの仕事もした。その結果、落着いたのが仲間との金券ショップ経営。軌道に乗るにつれ、俺にはやはり親父やら先祖の血が流れていると実感したもんだ。

 親父の辛さは痛いほど分かる。俺だって借金の辛さから夜逃げ同然のことをしたことは何度かある。死のうと思ったことも度々だ。でも残された家族を思うとそんな事はできやしない。必至で踏ん張るしかない。それを教えてくれたのは親父だ。

 五代目だろうが何代目だろうが、そんな事は関係ない。大切なのは家族をどうやって食わせていくかだ。借金を背負って、見栄を張って、挙句の果てには一家離散、自殺なんて、それこそ世間の笑いもんだろう。撤退すべきと判断したら、迷わずに撤退し、これからの生活基盤を考えるべきだと思う。逃避こそ敗北だ。

 店を再建するための資金は貸せない。薄情な息子と思うだろうが、誰の目にも再建は無理だ。それよりも今後の生活基盤の確立、転業を考えて欲しい。それによっては俺にできる限りの援助をさせてもらいたい。商売の師匠は親父だ。息子である俺には親父の今後を見守る義務がある。(2011年3月6日)

親父 65歳:酒店経営
息子 40歳:金券ショップ経営





今週のお品書き

  結婚は「縁」が大事だよね


 お父さん、先日はご免なさい。ついカっとなり、言い過ぎました。今もまだ自己嫌悪に陥っています。人事異動で新しい部署に配属され、慣れない仕事に悪戦苦闘。しかもミスが重なり、「ミスお局」という、的を得た渾名まで頂戴し、辞表を提出しようかと悩んでいた矢先でした。

 おまけに「結婚なんか一生しない。キャリアを重ねてシングルで通す」。こう宣言していた同僚が、実は結婚相談所に足しげく通い、しっかりと伴侶を獲得し、めでたく寿退社したのにも、なにか裏切られたような、出し抜かれたような気がして、ブルーな気分にさせられていたのです。そんなときに「お前もそろそろ結婚したらどうなんだ」という、お父さんの一言に、ついキレてしまって。

 私も人並みに結婚願望はあります。でも、現状を考えると難しいよね。我が家は2LDKの狭いマンション。旦那様が一緒に住んでくれるとは思えません。もし仮に住んでくれるとしても、お父さん、なかなかの頑固者だから、上手くやっていけるかどうかとても不安です。博愛に満ちた人物か、でなければよほど鈍感な人物でなければ、共同生活は無理。それに私が旦那様のもとへ嫁いだら、どうするつもり? 料理どころか、洗濯だって満足にできないのに。そんなこと分かっていながら、あんなこと言うんだもの。

 私が行き遅れた原因は、私が作ったのかもしれません。小学校のときにお母さんが病気で亡くなり、それからは忙しい警察の仕事をしながら一人娘の私を育ててくれました。その間、何度か再婚の話もあったけど、ことごとく私が反対。そのため、今日まで独身暮らし。再婚話に私が賛成していたら、今ごろは孫と一緒に散歩なんか楽しんでいたかも。そう考えると、自分の身勝手さに腹立ち、苛立ち、情けなくなってきます。本当にご免ね、お父さん。

 だけど、結婚がすべてではありませんからね。お父さんがよく言うように「縁が大切」。これまで何人もの男性を好きになったし、愛したけど、一度も実らなかった。結局、縁が薄かったと思うの。縁があって、そこから二人でその縁を太く、強くしていくものではないのか、最近、そう考えるようになりました。だから今はいないけど、もしかしたらこの先、そんな縁のある男性と巡り合わないとも限らないから、長い目で見てて。

 行き遅れの娘との二人暮しは、なにかと気が重いし、鬱陶しくもあるでしょうけど、我慢してね。これからは女手ならぬ娘手ひとつで面倒を見させてもらいますから。介護が必要になっても安心して。決して他人様には任せません。でもなるべくなら煙草とお酒は控え目にね。(2011年3月13日)

父 63歳:守衛
娘 37歳:印刷会社





  どんな田舎でも住めば都だね


 私たち家族がお父さんの故郷に引越ししてから、早いものでもう6年になりますね。あっという間です。

 引越しが決まったとき、とても悲しくて辛かったな。高校を転校しなければならないし、友だちとも別れなくてはならないし。それにお父さんの故郷は人口1万人ちょっとしかいない寂しい町。コンビニはあるものの、ファーストフードのお店なんかないし、夜の7時を過ぎれば、歩いている人なんかほとんどいないという、ほんとに田舎町。絶望的になったものです。

 だけど、住めば都でしたね。お爺ちゃんやお婆ちゃん、それに親戚の人たちが温かく迎えてくれたし、転校した高校でもすぐに友だちができました。東京から来たということで、いじめられるのかと不安でしたが、中国やアメリカからの留学生が何人かいて、グローバルな雰囲気。なんの心配もありませんでした。

 こんな私に比べ、苦労したのがお父さんとお母さんですね。親戚は温かく迎えてくれたものの、町の大人たちは「よそ者」扱い。子供の頃の仲の良かった友だちでさえ、なかなか打ち解けようとはしてくれませんでした。大人になるとこうも変わるものなんでしょうか。町で工務店を開いたものの、数年間はほとんど商売にならず、ときには東京で数ヶ月、出稼ぎもしましたね。あのときは辛かったな。こんなことなら東京のほうがマシだと思いました。

 工務店の経営が軌道に乗ったのは3年目あたりから。努力が実を結びましたね。他の工務店の人たちが嫌がるような安い仕事を引き受けたり、地域の世話役を買って出たりして、次第に地元の人たちからも信頼されるようになりました。お母さんもボランティア活動を通じ、なんとか町に溶け込もうと頑張ったしね。

 私もノンビリした町の生活が気に入りました。何度か東京へ遊びに行ったけど、都会のスピード、テンポにはついていけません。疲れるだけ。お父さんが田舎に帰ろうとした理由が分かったような気がします。

 「田舎の暮らしが嫌だったら、東京に戻ってもいいよ」と言うけど、大丈夫。確かに今の職場は給料も安く、お休みも少ないけど、楽しいよ。都会のような華やかさはないけど、そのかわり周りは自然が一杯。友だちとハイキングやドライブに出かける楽しみもできました。ストレスなんてほとんど無いよ。だからかな、体重が増えちゃった。それに買いたい物もそんなにないから貯金も増えたし。田舎の生活って素敵じゃん。

 将来的にはお婿さんをどうするかですね。地元にステキな男性がいたら、お婿さんとして迎えてもいいしね。お父さんみたいに地味だけど、優しくて堅実、実直な人が希望です。(2011年3月20日)

父 53歳・工務店経営
娘 23歳・事務員



今週のお品書き

  見かけだけで判断していたことを反省してます



 お父さん、猛暑にもかかわらず、いつもお仕事ご苦労様です。
 
 会社まで電車で片道1時間半。往復で3時間。シンドイと思います。ラッシュ地獄はハンパじゃないものね。私も大学に通学するようになってよく分かりました。このラッシュで一日の3分の1くらいのエネルギーは消耗するということが。

 ラッシュに揉まれながら帰宅はいつも夜の10時過ぎで、それからお風呂、簡単な食事。布団に入るのは真夜中の1時近く。それで朝は6時に起床しなければならない。休日は一日中寝ていたくなるのも当然か。

 電車で見かける疲れたオジさん、酔っぱらったオジさん、エッチな新聞に見入っているオジさん。こんなオジさんたちをずっと軽蔑していました。なんていうか、情けなく見えて仕方ないんです。多分、お父さんもこんなオジさんたちの一人?

 こんな私の考え方、見方を変えてくれたのが、バイト先のオジさん。「君たちはもう大学生なんだから、中学生や高校生みたいな、見かけだけで物事を判断するのは止めなさい」だって。マジな顔してさ。

 バイト先のオジさんが「たまにはオジさんたちと飲まないか」と、バイト連中を居酒屋に誘ってくれたの。飲み代はオジさんたちが持ってくれるというから、もうみんな大喜び。オジさんの目的は分かっていたよ。私たちに説教するか、酔った勢いでセクハラめいたことするんだろうって。でもそんなことなかった。オジさんたちニコニコしながら、私たちの幼稚な話に耳を傾けていたの。

 で、酔った勢いでバイト仲間の一人が「私たち若い連中の多くは、オジさんたちを情けなくてダサくてイヤらしいと思ってますよ」と言ったの。そしたらオジさんの一人が「私たちオジさんの多くは、若い君たちを世間知らずで傲慢で、そのくせ損得勘定だけはしっかりしている奴らだ、と思っているよ」と応えたの。一瞬、場に緊張感が走ったけど、誰かが笑い出したのをきっかけに、場はとても和やかなものになったのです。それからは本音の出しっぱなし。若い無知な世代の傲慢なツッコミを、本当の大人のオジさんがボケながらも受けてくれる。私にとっては初めての体験で感動ものでした。

 確かに物事は見かけだけで判断するものじゃありませんね。また誰かが伝えたものをそのまま信じるのも禁物です。自分なりに調べ、自分なりの考え、見方を身につけなければ、いつまでたっても大人にはなれないことが分かりました。お父さん、今度ゆっくりお話しましょう。仕事、人生、家族のこと、なんでもいいから話し合いましょう。なんでか今、とても溝を埋めたい気持ちなんです。(2011年3月27日)

父 48歳・私鉄
娘 20歳・大学2年