空手を続けて逞しくなったね

 お父さんって凄い。マジで空手の昇段試験に合格しちゃった。ウソって感じ、空手二段だなんて。

 「空手やるぞ」って言ったとき、誰も信じなかったもん。だってお父さん、なにやっても三日坊主だしさ。ジョギング、水泳、アスレチッククラブ、中国語、英会話。どれも長続きしなかったよね。「疲れる。面倒くさい。イライラする」って、すぐ投げ出しちゃうんだから。今回もみんなで賭けたんだよ。何日持つかって。そしたらみんな大外れ。

 しかしよくやるよね。空手というハードなスポーツを40歳から始めたんだもの。最初の頃はクタクタになって帰ってきて、バタンキュー。練習で痛めた体を引きずっては、会社に行ってたんだもんね。なかなか根性あるんだって、みんな感心した。

 あの三日坊主で根性なしのお父さんが、なぜ急に空手なんか習い始め、今も続いているのか、最初は誰も分からなかった。お父さんもなんにも言わないし。風邪をひいて寝込み、心配した空手の師範がお見舞いにきて、それでようやく分かった。空手を始めた理由が。30年ぶりに再会した師範というのが幼なじみ。その師範の影響だったんだね。

 池袋で酔っ払って歩いているところを、悪ガキたちにカツアゲされてビビりまくり。通りかかったオジさんがその悪ガキどもを怒鳴りつけて一件落着。そのオジさんというのが幼なじみだった師範という、劇的な出会い。ちょっとでき過ぎてない?

 子供の頃、三歳年下で貧しい暮らしの師範を、お父さんとても可愛がったとか。師範がイジめられていると飛んでいき、イジめっ子をボコボコにし、「兄貴」と慕われるまでになったけど、引越しなどで二人は分かれ別れに。

 それからの二人が歩んだ人生って対照的。お父さんはなんの苦労も無くお爺ちゃんの会社の後継ぎに。師範はグレまくってヤクザ屋さんから自衛隊、そして焼き鳥屋さんの修行。と同時に空手家の道をまっしぐら。今では焼き鳥屋チェーンの社長、空手5段の師範。「いばらの道で鍛えられた男ってセクシーよね」とはお母さんの師範評。誰でもそう思うよ。お父さんも昔の強かった「少年」に戻るべく、師範の道場に入門。

 だけど師範って、リーダーとしてもピカイチだよな。だってお父さんのこと「兄貴、兄貴」とおだて、五年も空手を続けさせるんだもん。しかもお父さんみたいなサエない弱そうなオジさんたち、何十人も面倒みて逞しく育てているとか。偉い!
お腹もへこみ、根気強く逞しくなったお父さん、この調子でダメ親父から脱皮し、我が家のカッコいい「兄貴」に昇格してね。期待してるよ。(2011年4月3日)

父 会社経営・45歳
娘 大学2年・20歳




 たった一人の妹だもんね


 上りの新幹線に妹が乗車する寸前、すばやく封筒を手渡しましたね、「ああ、またか」とため息が出ました。もうこれで何回目でしょう。お父さんのお小遣い、また減りますね。お金、家族、戻れる故郷、なかでも優しい両親を持った有り難さを、妹は車中で噛みしめていることでしょう。

 中学に入ると登校拒否、引きこもり、家庭内暴力、暴走族との付き合いと、我が家は妹に振り回されっ放し。家のなかは荒れ果て、私も一時は大学進学を諦めたものです。だけど親戚の援助などを得て、大学を無事に卒業、地元の銀行にも就職ができました。これも妹が早くに故郷を捨てたからだと、心の隅で感謝したほどです。故郷には何があっても戻ってきてもらいたくない。妹なんて最初からいなかった。そんな気持ちで十数年を過ごしてきたのです。お父さん、お母さんも私と同じ気持ちに違いないと思っていたのですが。

 十六歳で家出した妹が突然、十二年振りに戻ってくるという話を聞いたとき、我が耳を疑い、貧血を起こしそうになりました。しかも二百万円の借金をしに。呆れました。てっきり断るものだと思っていたのに、お父さんもお母さんも「親子四人が路頭に迷うかもしれない。今回だけ大目に見てあげよう」だなんて。親子四人が路頭に迷うのも、それは自分たちの行いが招いたこと、家と家族を捨てた妹なんかになぜ手を差し伸べなければならないのでしょう。

 妹がこれまでどのようにして生きてきたのか、叔父さんから詳しく聞くことができました。複雑な思いです。故郷を捨てたのは、私たち家族にこれ以上迷惑をかけたくなかったからなんですね。それからは貧困と苦労の連続。その日の食事にも事欠く生活を送りながらも、焼き鳥のお店を持つために必死になって働いた妹夫婦。念願のお店を持った矢先、夫がガンで入院。お店も妹一人ではどうにもならなくなり閉めてしまった。だけど開店のために借りたお金は返さなければなりません。しかし女手ひとつで、しかも幼い子供が二人いるのでは限界があります。妹もとうとう過労で倒れてしまった。叔父さんの計らいで、我が家が支援に乗り出したというわけですね。

 妹に対する恨みつらみは残っていますが、水に流すことにしましょう。甥や姪を支えてあげる事が今は優先課題。そして義理の弟が退院して、再び元気で働いてくれることを祈るだけです。妹にはこれから先も迷惑をかけられそうですが、家族ですものね、私たちが支えてあげないと。来月あたり、弟のお見舞いに行ってきます。あの妹を真面目に更正させてくれた男とはどんな男なのか、私も会って話してみたくなったから。(2011年4月10日)

父 58歳・農業
娘 30歳・銀行




  お互い、『恩』を忘れずに生きていこう


 「父親というものは、いつの世でもウザったいもんだ。このウザったい父親を、君たちが嫌って当然だよ。ただし、その恩だけは忘れるな」。

 先日、近所の寺からお坊さんがきて、うちの学校で講演したんだけど、なかなか良い事を言っていた。その報告をします。オヤジにも関係のある事を話していたから読むように。

 そのお坊さん、開口一番、俺たち世代への攻撃から始まった。目上の人間に対する言葉使いや態度の悪さ、公衆マナーの悪さをあれこれと怒ってたな。なんだよ、ただの説教かよと聞いていたら、「ただし、反発心と反抗心には期待している」だとさ。

 この坊さん、あちこちの高校でも講演するらしい。俺たちのような落ちこぼれの高校からチョー有名な進学校まで。そこで感じたのが、「良い子」と「悪い子」の違いだってさ。

 世間でいう「良い子」というのは、確かに頭もいいし、マナーもしっかりしている。ちゃんとした意見も持っているらしい。けど、いつも見ているのは親の顔ばかりだという。親から誉められたいから勉強し、親の意見を自分の意見だと思ってるらしい。このままじゃいつまでたっても本物の大人にはなれないんだと。反対に、いつも親とケンカし、ウザったい、早く独立したいと思っている「悪い子」のほうが頼りがいがあるんだと。どうだオヤジ、こんな坊さんも世の中にはいるんだぜ。ただし、育ててくれた恩を忘れた子供は、どこまでいってもダメな悪い子だと。

 「恩とは因に心と書く。物事には原因があって結果がある。すなわちこの原因を知る心が恩である」だと。俺たちが今こうして何事もなく、学校で勉強できるのは、奇跡に近いことだそうだ。その奇跡は親を始め、親しい人たち、見知らぬ人たち、様々な動植物、自然が支えてくれているからだという。だから俺たちを生かしてくれているあらゆるものには感謝すべきで、それが恩だと。

 悪い子は反発しながらも親を乗り越え、距離を置くことで初めて父親を客観的に見ることができ、そのときに恩を知るという。良い子はいつまでも親べったりだから、好きか嫌いかの関係しか持てない。だから爆発すると殺人にまで発展するとも。

 難しい話だったけど、なんか大切な事を学んだような気がした。確かに俺もオヤジたちの恩を忘れていたような気がする。感謝しないとな。辛い仕事も俺たちのために歯を食いしばって頑張ってくれているんだもんな。アリガトさんです。ただし調子に乗るなよな。坊さん曰く「父親たちも子供たちによって成長している。この恩を忘れている大人は悪い大人ですから軽蔑されても仕方ない」だって。お互い気をつけようぜ。(2011年4月17日)

親父 45歳 地方公務員
息子 16歳 高校2年





お父さんは矛盾と疑問だらけの人だよ


 お父さんは矛盾だらけの人です。お父さんの言う事をいちいち聞いていたら、私は分裂症になっちゃいそう。だからしばらくは私からお父さんに話しかけることは無し。お父さんからの会話も無視します。ただし、次の私の意見にちゃんと答えたら、態度を改めてもいいっすよ。

 「物は大事にしろ。粗末にするな。まだ使えるだろう。もったいない」。おっしゃる通りです。まだまだ使える物を、私は簡単に捨てたり、買い換えたりしてきました。貧しい暮らしをしている人たちが見たら、「なんという大バカ者なんだろう」と思うに違いありません。反省してます。

 ではお父さん、あなたは物を大事に、大切に扱っていますか? あなたの会社では毎年、色、デザイン、素材、機能の異なる洋服を販売していますよね。これって毎年出す必要あるの? 洋服って何年も着れるじゃん。それなのに「あなたのはもう古い。時代遅れです」調の大々的PR、ちょっと変じゃないかな。時代遅れの洋服はどうしてんの? 貧しい国々の人たちに送っているという話も聞いたことないし、リサイクルしているって話も聞いたことないよ。そのあたりどうなってんの?

 それにこの「時代遅れ」っていう言葉。「時代には乗り遅れるな。乗り遅れると損をする。泣きを見る奴らはみんな時代に乗り遅れた奴ばかりだ。勝つ奴は時代に敏感なんだ」という言い方。気に入らないよな。

 お父さんが言う「時代」というのは、単なる比較だけなんだよ。他人と比較してどう。同僚と比較してどう。他の会社と比較してどう。つい最近、部長に昇進したときだって「他の連中をごぼう抜きだよ。時代を見抜いてるからな俺は」ってご機嫌だったけど、昇進できなかったら時代遅れなワケ? 真面目にやってても? 熱心に読んでる本や雑誌は勝ち組みがどうの、どこそこの会社のボーナスはどうのと、比較したもんばっかじゃん。それ読んで一喜一憂?

 中学生の頃まではなんてカッコイイお父さんなんだろうと思いました。だけど高校に通うようになって、ちょっと考え、見方が変わったの。お父さんが昇進して給料やボーナスを沢山もらう。そして私たちも豊な生活がエンジョイできる。そうした事にも疑問を持つようになった。

 この頃はお母さんとの結婚そのものにも懐疑的。まさか、色んな女性たちと比較してお母さんを選んだじゃないだろうね。愛情とかは二の次三の次で。それが本当だとしたら、私は何なのさ。とにかく今のお父さんは得体の知れない、理解できない人間。私の疑問にちゃんと答えてください。(2011年4月24日)

父 48歳:アパレルメーカー
娘 17歳:高校2年