八戸自由大学第5回講座(2011年4月2日)

演題

  「ポスターを貼って生きてきた」


講師・笹目浩之氏(ウルトラポスターハリスター・(株)ポスターハリス・カンパニー代表)
    

笹目浩之氏プロフィール 1963年茨城県生まれ。87年ポスターハリス・カンパニー      設立。飲食店を中心とした演劇、映画、美術展等のポスター配布媒体業務を確立する。90年代より演劇、映画、イベントの企画、宣伝、プロデュースも多く手がける。94年、現代演劇ポスター収集、保存、公開プロジェクトを設立・同代表。(株)テラヤマ・ワールド代表取締役。寺山修司記念館副館長。著書に「ポスターを貼って生きてきた。~就職もせず何も考えない作戦で、人に馬鹿にされても平気で生きて行く論~」(PARCO出版)

講演抜粋

笹目さんは大学進学を目指して茨城県から上京、予備校の予ゼミで学ぶ。その頃に出会ったのが寺山修司と天井桟敷の演劇だった。なかでも寺山の最後の演出作品「レミング」に感動、大学受験はどこへやら、どっぷりと演劇鑑賞に浸かることになる。実家の親からは勘当され、明日の生活もままならないというのに、それでも劇場に足を運ぶ笹目さん。そんな笹目さんを見ていた人がいた。寺山修司の元夫人である九條今日子さんである。顔なじみになった笹目さんに九條さんは、寺山追悼公演の「青森県のせむし男」のポスターを貼りにいくよう依頼する。これが笹目さんの人生を大きく変えることになる。

「ぼくは役者や演出家志望ではなかったが、ポスターを貼りに行くという行為が、街のいたるところや人々の生活のなかにまで演劇や芸術的なものを広げるという、どこか寺山さんの演劇論に近い行為だという勝手な認識をもった」。「重いポスターを持って夜の街をひたすら歩き続ける演劇の伝道者。その向こう側に、舞台の上で脚光を浴びる役者たちの姿が浮かび上がる。ポスター貼りは、その大切な舞台に注目や関心を持ってもらうために欠かすことのできない活動なのです」。

「もちろん、こんな仕事が長く続くと思っていたわけではない。時代の後押しもあり、その後、ポスター貼りの仕事は徐々に増えていくわけであるが、駄目なら辞めればいいという開き直った考えはいつも持っていた」。「ポスター貼りが舞台で脚光を浴びることなどありえない。しかし、演劇作品一つを作るときに、実はもっともお客さんに近いところで仕事をしているのがポスター貼りなのだ。それならば、劇作家や演出家、舞台美術家などと同様、せめてポスターやチラシにクレジットくらいは入っていても良いのではないか。いわば『ポスター貼りの地位向上』を目指して会社を立ち上げた」

「経済や経営の勉強などしたこともない。そもそもビジネス書一冊すら読んだことがないのだ。それでも欲や名声に目がくらんで、自分の能力や分際を超えるような余計な仕事に手を出さなかったのは、それまでのどん底暮らしで、いくらか人や世の中を見る目が備わっていたからだろう。自分で足を運び、人に会ってたくさんの話を聞いてきたことが、生きる上でいくらか役に立っていたのかもしれない」。「人がやりたがらない仕事を引き受け、ときに馬鹿にされながらも最底辺から演劇を見続け、足で情報を集めてきたことで、ある日それがプラスに転じることがある。『継続は力なり』という言葉があるが、本当にこんなことが起きるのだと思った瞬間が何度もあります」