岩手信用生協の取り組み  多重債務者を救済せよ! 第二回

徹底的なカウンセリング

岩手信用生協に駆け込めば、スイッチローンなどの利用が受けられ、誰もが多重債務から救われるのかといえば、それはノーだ。同信用生協を訪れると相談員が事情を聞き、その内容に応じて任意整理、特定調停、個人再生手続き、破産のなかから一番適した方法を提案する。審査も厳しい。負債総額を最長10年の返済期間で計算し、年間の返済額が年収の3割を超えると融資は断られる。

昨年上期のケースだが、相談者数1679人のうち、融資を受けられたのは451件。融資外での解決は337件あった。融資外での解決、その内訳だが自己資金解決97。特定調停75。民事再生33。自己破産119。他13である。

融資が受けられたとしても徹底的なカウンセリングが待っている。一時的な手当だけでは根本的な解決にはならないからだ。一から出直し、生活を再建するためには相当な覚悟が求められる。これまでの贅沢と思われる出費はもちろんのこと、食費、家賃、光熱費、保険の掛け金など、身の丈に応じた出費をアドバイスされ、家計簿をこまめに付けることも求められる。こうしたきめ細かなアドバイス、活動が貸し倒れ率0.05%、延滞率3.5%という驚異的な数字となって現れている。

この数字から見えることは、多重債務を負っているとはいえ、誠実に返済の義務を果たそうとする姿勢である。また贅沢な暮しのため、あるいはギャンブル、酒、異性交遊のために多額の借金を背負ったわけではないことは、これまでに紹介したケースからも充分に分かるだろう。同信用生協における昨年の借り入れ動機統計でもトップは「家計補助」、次いで「物品購入」、「借金返済」と続き、「ギャンブル」は下位にランクされている。いわば窮余の策としてサラ金を利用しているわけだが、サラ金業者にそうした事情は通じないし、返済にあたっても温情をかけることなどは一切しない。

 「サラ金から金を借りるなんて、特殊な人々のすることだと思われるでしょうが、決して他人事ではない。普通に生活している人でも、運悪く会社が倒産した、リストラされた、病気になってしまったら生活に窮するのは目に見えている。貯金だけでやっていけるのは僅かな人々か資産家だけでしょう。しかも住宅などのローンが残っていたり、教育費がかかる子供たちがいたらお手上げです。危険だと分かっていてもサラ金に手を出すしかない。またどんなに困ってもサラ金には絶対に手を出さないと注意していても、騙されたり、巻き込まれてサラ金から借金を背負うケースだってあるんです」。

1987年、宮古市で金融詐欺事件が発生した。同市の自称金融業者(当時25歳)が、同級生や知人など約300名から名義を借り、複数のサラ金から総額約2億5000万円を借りたまま行方をくらませたのだ。大勢の善良な市民を巻き込んだ詐欺事件は県内外に波紋を呼び、同信用生協も救済に乗り出した。「借りたくて借りた金ではないのに、なぜ返済しなくてはならないのか。自分たちの生活も苦しいのに」。被害者の無念の言葉が横沢氏の耳にこびりついた。だが、貸借関係が成立している以上、詐欺であろうが返済義務は負わなければならない。事態を引き延ばして喜ぶのは金利が増えるサラ金業者だけである。一括返済ならば利息軽減の交渉にあたるというサラ金側に応じ、同信用生協から救済資金が貸し与えられ弁護士と共に任意整理にあたった。実はこの集団詐欺事件が発端となり、「多重債務は個人だけの問題ではなく、地域全体で考え、対処していく問題である」と横沢氏は痛感、各市町村から原資を集めるというアイデアを思いついたのである。

 「各市町村からの理解、協力を得られるまでは苦労の連続でした。なにしろ前例がありませんでしたから。「サラ金に手を出す奴にろくな人間はいない」。「自分で働いて返せばいいだろう」。「大切な税金が戻ってこなかったらどう責任を取るんだ」とかね。しかし困っている人たちが現実にいる。悲惨な事件や自殺、一家離散を黙って見過ごしていいのだろうか。それはやがては地域の崩壊にもつながりかねないと訴え続けるしかなかった。協調融資に応じてくれた銀行も当初は「焦げ付きの心配はないのか」など慎重でした。だからこそ徹底したカウンセリングなどを施し、延滞率、貸し倒れ率共に低く押さえることに成功、事業的に成り立つことを証明し、徐々に信頼を勝ち得ていったんです。それに集団詐欺事件に対しては、岩手弁護士会と共にいち早く相談会などを開催するなど取り組んできた姿勢も、行政担当者や金融機関の理解を得ることにつながった」。

問題は「苛酷な取立ての3K」

この10年で組合員は倍増し、事業高も約2、8倍となった。依然として多重債務に悩む相談者の数は減ることを知らない。本部が置かれた盛岡市だけでは対応に限界があるとの理由から、2000年3月に北上市に「信用生協北上事務所」、2002年3月には「釜石事務所」を設けた。太平洋沿岸と県南地域の拠点として、弁護士、司法書士の協力を得ながら地域相談会や融資相談会など幅広い消費者支援活動を展開しているが、相談者は後を絶たない。「借り手である消費者にも問題はありますが、原因を突き詰めていけばサラ金による高金利、過剰貸付、過酷な取り立ての3Kに尽きる」。

サラ金最大手の武富士の場合、2001年3月期決算では営業収益が前期比7、9%増の4004億円。経常利益は同18、3%増の2411億円と、いずれも過去最高を更新した。2位のアコム、3位のプロミス、4位のアイフルも同様。大手4社は揃って収益、利益とも過去最高を更新したのである。要因は低金利で資金調達コストが下がった点にある。4社の平均調達金利は年2%台前半。これを年平均20%台という金利で貸し付けるのだから利ざやが大きくなって当然だろう。しかも無人店舗の増設などで新規顧客の獲得に苦労はしなかった。その結果が約9兆円の貸出残高(99年3月末)である。

 歩調を合わせるかのようにサラ金によるテレビCMが幅を利かせる。一昨年には関東だけでも10年前の4倍にあたる約2万本ものCMが茶の間に流された。一方では自己破産の申し立てが10年前の約10倍にあたる14万件にものぼった。横沢氏が言う高金利、過剰貸付、過酷な取り立てとは無縁ではなかろう。

「サラ金は広告のなかで使いすぎ、借りすぎに注意しましょうと呼びかけていますが、あまり意味はないですね。業者にもよりますが無人契約機は本人さえ確認できれば、他のサラ金から借金があろうが、返済能力に欠けようが関係無しに誰にでも現金を貸し出しますから。もしサラ金業者に良心というものがあるのなら、「うちではこれだけの金利を取ります」「あなたの年収なら毎月これだけの返済になります」ぐらいのアドバイスをしてもいいはず。それすらもしないで無差別に貸し出し、高い金利を請求する。借りた人の多くは誰にも相談しないで借りているから、困った際には誰にも相談できないことになるんです。そして借りた自分が悪いんだと自責の念にかられることになり、悲劇が始まる」。

高い金利をめぐってはサラ金業者側と、弁護士らで作る「全国クレジット・サラ金問題対策協議会」、多重債務の経験者らで作る救済団体の集まり「全国クレジット・サラ金被害者連絡協議会」の間で綱引きが繰り広げられている。

サラ金業者側の言い分はこうだ。「金利を引き下げたら零細、中小の真面目なサラ金業者は立ち行かなくなり、そのひずみとして悪質な業者に顧客が流れることになる。今以上に自己破産などをもたらすのは必至。それを防ぐためには貸金業の登録制度を見直し、悪質な業者のチェックはもちろんだが、35、5%から40%の金利引上げが利用者のニーズに応える妥当な線」。

一方の「全国クレジット・サラ金問題対策協議会」「同被害対策協議会」では「高金利が諸悪の根源。出資法の上限金利(29,2%)をとりあえず利息制限法(18%)まで引き下げるべき。サラ金業界が社会的存在主義を主張するならば、福祉の貧困にも目を向けるべきだ。失業者や高齢者、母子家庭への支援は貧弱で、事件事故の被害者も放置された状態。こうした状況に配慮してもいいだろう」と反論し、次いで外国のケースを紹介している。

 「ドイツでは銀行の通常貸出金利の2倍を越えると公序良俗に反するとの判決が出ている。フランスも国が消費者金融の金利を監視し、年利は10%程度。日本と一部の外国を除けば健全な金利を設定している。契約というのはみんなを幸せにする道具であり、契約して不幸になるのは契約とはいえない。サラ金業界は借り手が安心して借りられる金利でも生き残れるよう、経営努力すべきではないか」と。

強気のサラ金業者にこうした声がどこまで届いているか、はなはだ心もとない。横沢氏の胸中も複雑だ。「先に起きた青森県弘前市の武富士放火事件。稀にみる凶悪事件で犯人は断罪されるべきですが、事件を起こす前に適切なアドバイスや解決策を示してやれる機関、相談者がいれば、最悪の事態は避けられたのではないでしょうか。債務問題はいくら借主責任によって本人を責めたところで、何の解決にもならない。もっと根本的な部分でのインフラ整備が必要だと思うんです。例えば自動車事故を起こした場合、ドライバーの責任は過失割合があるとはいえ当然存在する。しかし、そこには誰もが事故を起こし、起こされるという前提があります。そのため安全運転はもとより、国家的施策として道路改良や自賠責保険などの総合的インフラが整備され、加害者、被害者双方とも損害や補償については担保される仕組みになっている。ところが、社会的問題にまで発展している多重債務問題に関しては、借りた金はとにかく支払うべきだという借主責任が今もって主流を占めている。ここ最近、ようやく貸主責任が問われるようになり、個人債務者再生手続きも施行されるようになりましたが、消費者教育や学校での消費者問題教育は立ち遅れ、債務整理にかかる法律的不備、業者への規制、信用情報の未整備、相談救済機関の不足など、如何ともし難い状況にある。国をあげての総合的インフラを推進していかなければ」。

消費者問題についてアメリカを視察した際、その充実ぶりに目を見張った。非営利組織のCCCS(コンシュマー・クレジット・カウンセリング・サービス)は、同信用生協と似た組織である。多重債務者に対し、給料やクレジットの支払明細書などを持参してもらい、カウンセラーから電話代や医療費、教会への寄付金にいたるまで無駄遣いを洗い出してもらう。さらに銀行やカード会社と返済額を減らす交渉にもあたってくれるのである。返済はCCCSが代行。多重債務者の給料から毎月天引きし、借金額に応じて債権者に振り分けられる。相談者は毎年約160万人と多いものの、全米に約1450カ所あるCCCSがそれらを見事にカバーしている。

クレジット教育も活発だ。CCCSでは全米各地の高校に出向き、数学や家庭科などの授業を利用してクレジット問題を講義している。またコロラド州デンバー市郊外の全米財政教育基金は、高校生向けの金銭管理教育に取り組んで15年にもなる。税理士やファイナンシャルプランナーなど金融の専門職の組合を母体に、約150億円の基金を運用。全米の高校に毎年約50万部のテキストを送り、約5000の高校に講師を派遣している。

 「消費者金融が最も盛んなアメリカでは金利が約12%から45%。これに比べたら日本の金利は驚くほど高いとはいえない」。これはサラ金業者の言い分だが、単なる金利の比較しかできないようだ。アメリカの消費者がいかに国、各種団体、機関から借金の怖さ、自己責任の重さを教育され、そのうえで救済されているのか、横沢氏が言う金融におけるインフラ整備の実情を知らない発言には絶望感すら感じる。「いずれを見ても日本の立ち遅ればかりが目立つ」。歯がゆい思いの横沢氏である。

東に病気の子どもがあれば....

金融に関する各種トラブルに巻き込まれて相談を寄せる件数は年々増加傾向にあり、昨年は2400件もあった。寄せられる期待は大きい。だが、「将来は楽観視できない」。増え続ける一方の多重債務者にどこまで対応できるのか。また自治体の財政が苦しい中、今後どこまで預託金を増やしていけるか。さらに協調融資をしてくれる銀行も自己資本比率の確保やら、金融監督マニュアルが気になる様子。融資が途絶えないよう、磐石な経営を確保しつつ、一方では新たな資金調達の方法を模索しなければならない。

同信用生協に駆け込んで救われたにもかかわらず、再び相談所を訪れる「懲りない人」もいる。そんな人間は放っておけばとも思うが、「困っている以上は手を差し伸べてあげないと」と、東奔西走する。そんな横沢氏や同信用生協の活動を見て思い出したのが、宮沢賢治の「雨ニモマケズ」の一節だ。「東に病気の子供あれば行って看病してやり、西に疲れた母あれば行って稲を負い、南に死にそうな人あれば行って怖がらなくてもいいと言い、北に喧嘩や訴訟があればつまらないから止めろと言い....」。

そういえば賢治も岩手県は花巻市の出身だった。貧しい農家を救済するため奉職を投げ打ち、農業指導やら肥料相談に乗り、無料で講演も出向いた。「世界全体が幸福にならないうちは、個人の幸福はありえない」という思想は、今も岩手に脈々と受け継がれているかのようである。「みんなにでくのぼうと呼ばれ」ようとも、「誉められもせず」とも、一人でも多くの人を借金地獄から救い、幸せな生活を応援する。これが横沢氏や同信用生協が夢見る「イーハトーブ」なのかも知れない。


「岩手信用生協の取り組み  多重債務者を救済せよ!」は、別冊宝島Real034号(2002年7月発行)に掲載されたものです。固有名詞、数字などは当時のものです。岩手信用生協は現在、青森県にも活動を展開中です。http://www.iwate-cfc.or.jp/   また、横沢善夫氏は現在、一般社団法人「生活サポート基金」でご活躍中です。http://www.ss-k.jp/outline.html