八戸自由大学第2回講座より抜粋

講座名
 「文字を刻む、文字を愉しむ」 ~刻字に魅せられて~

講師  小野澤旭堂氏

小野澤旭堂氏プロフィール  昭和12年八戸市生まれ。八戸高校卒業後、印章修行のため上京。昭和36年帰郷。父のもとで印章業を始める。篆刻・刻字を千田(ちだ)得所先生に師事。毎日書道展グランプリ受賞。青森県芸術文化報奨受賞。八戸市文化功労賞受賞。八戸市在住。

講座より抜粋

篆刻とは  印章を作成すること。中国を起源として主に篆書体を印文に彫ることから篆刻というが、その他の書体や図章に彫る場合もある。現代実用篆刻は書画の落款として利用されているが、押印した印影自体が美術作品として書道の一部門になっている。

落款印について  書画作品において落款(落成款識・らくせいかんし)は必要不可欠であり、落款印を押すことで作品の価値・品格はより高まる。その逆に作者署名、すなわち落款のないものは作品とは呼べない。最近、落款がなく落款印のみの作品も多くなったが、ここに落款印の重要性が見てとれる。落款印は作品のサイズにより大小あり、作品のどの位置に押すか、さらには印泥の色は何色にするかなど、奥深いものがある。

刻字について  文字伝達・保存を目的に生まれ、長い歴史を持つ。古くは石碑に記録したことも刻字といえるのではなかろうか。現代刻字の誕生は5、60年ほど前というまだ若いジャンルである。刻字の魅力は立体的書道で色彩豊な絵画的要素を持ち、宇宙的ともいえる拡がりの大きさである。一般的には木に文字を彫り、着色をし、金箔・銀箔などで仕上げる。現代の生活空間にマッチしたインテリアとして人気を集めるようになった。

内藤香石氏との出会い  篆刻・刻字を始めるきっかけとなったのは、その道の大家であった内藤氏との出会いが大きい。同氏からは様々なことを学んだ。印章につていも同氏は独自の思想を持っていた。古代エジプトの印章についての見解も奥深いものがある。「古代エジプトの印章はBC3000年前頃、メソポタミアから伝えられた。初期の印章メソポタミアと同様に、円筒印章が使用されたが、その後、エジプト独特のスカラベ(聖甲虫)印章が盛んに使用されるようになる。スカラベ印章は黄金虫の一種で、生命力が大変強いことから、古代エジプトでは生命力のシンボルとして神聖視された。このスカラベ型の石や焼き物などに名前や官職名を刻み、更にそれらに紐を通してお守りとしていたようである。またスカラベは指輪印としても盛んに使われ、この習慣はその後、ギリシャ、ローマを経て世界へと受け継がれた」。

古い歴史に培われ、現代に立体書道として出発した刻字は束縛のない世界である。小品から建造物としての刻字まで多種多様である。古い町並みの看板や寺院の掲額等に出会ったときは、心が休まる思いだ。そこには木材の力強さと温かみが感じられる。ノミを持ち、刻字作品に向かうとき、今日の雑音から離れ無心になり、幽玄の世界に遊ぶ思いである。立体書道と色彩豊な絵画的要素を兼ね備えた刻字は、誰にとっても生涯のライフワークになると思う。刻字にはそれだけの魅力がある。

(印章、篆刻、刻字については、小野澤氏の「朝日堂」のホームページに詳しく紹介されておりますので、そちらをご覧ください。http://www5.ocn.ne.jp/~asahidou/