八戸自由大学第4回講座より抜粋

演題 「三浦哲郎作品にみるユーモアについて」
     ~「なわばり」「ぜにまくら」を事例にして~

講師・森林康氏(三浦哲郎文学顕彰協議会事業部長)

講師略歴・1938年八戸市出身。元小学校校長。八戸市教育委員会・八戸市教育長。著書に「夢を育む」「教育は感化にあり」「子どもの心に火を灯す」など。

講座より抜粋

三浦哲郎について
三浦哲郎は昭和6年、八戸市三日町で、父壮介、母いとの三男として生まれる。八戸高等学校を卒業し、昭和24年、早稲田大学に入学。翌年に退学帰郷し、白銀中学の助教諭として2年間勤務する。昭和28年、文学を志願し、再び早稲田大学の仏文科に進み、在学中に「十五歳の周囲」で第二回新潮同人雑誌賞を受ける。昭和36年、29歳のとき「忍ぶ川」で第44回芥川賞を受賞、作家としての地歩を固める。その後、野間文芸賞や日本文学大賞を始めととする数々の文学賞を受賞し、とりわけ川端康成文学賞を二度受賞して、短編小説の名手と称される。八戸市の名誉市民で、青森県人初の芸術院会員でもある(三浦哲郎文学碑の解説文より抜粋)。2010(平成22)年、東京都内の病院で逝去(享年79歳)。

三浦哲郎の主な作品について
自伝的な作品 『忍ぶ川』 『初夜』 『笹舟日記』 『愁月記』 『白夜を旅する人々』
物語小説(長編) 『海の道』 『愛しい女』 『夜の哀しみ』 『百日紅の咲かない夏』
      (短編) 『おろおろ草子』 『暁闇の海』 『少年賛歌』
長編童話 『ユタと不思議な仲間たち』
ミステリー小説 『モーツァルト荘』
随筆・紀行文 『下駄の音』 『一尾の鮎』 『狐のあしおと』 『母の微笑』 『せんべの耳』
少年・少女小説 『ひとり生きる麻子』 『兄と弟』 『青春相談室』
新聞小説 『繭子ひとり』 『はまなす物語』
その他 『自作への旅』 『林檎とパイプ」
(単行本約90冊、文庫本約50冊、全集三種類)

三浦哲郎作品の魅力について
(1)作品の多様性とその要因
  ① 県南八戸の風土(南部地方)、②哲郎の生い立ち・宿命(姉2人の自殺・兄2人の失踪・亡びの血) ③家族(母を中心に妻、姉、3人の娘) ④生活の場・転居(八戸、湯田、一戸、東京、八ヶ岳山麓) ⑤方言の活用(八戸弁、南部弁、語り言葉、会話) ⑥その他(苦悩困窮、社会的事象、歴史的事象、時事問題などへの関心)
(2)読書欲を高める書き出しの文章(一文一文が短文。簡潔な文体と句読点)
   事例① 「十五歳の周囲」より
   たった一度だけ、遺書を書いた経験があります。しかし、自殺のためではない。殺される危険を、予感したからです。それは大げさだ。無自覚のまま、不意にあの世へ持っていかれる頼りなさから、と言い直してもいい。十五の夏でありました。
   事例② 「忍ぶ川」より
   志乃をつれて、深川へいった。識りあって、まだまもないころのことである。深川は、志乃が生まれた土地である。
(3)弾むようなリズム感のある文章、短文型の文章(次の文との連携、様子や意味の深化)
   事例① 「乱舞」より
   おふくろは病院のベッドで夢を見る。盆踊りの輪のなかに入って両手をひらひらさせながら踊っている夢を。醒めれば半身不随で寝たきりだが、夢のなかでは手も足も自在に動く。おふくろは浴衣姿で頭に手拭いをかむっている。浴衣は裾を短目に着て、素足に藁草履を履いている。太鼓に合わせて酔ったように踊る。浴衣の袂がひるがえる。
(4)ユーモア溢れる文章(本日のテーマ。ユーモアとは上品な滑稽、洒落。思わず笑いがこみあげてくるような、あたたかみのある面白さ)
(5)地域を描写した文章・風土を反映した文章
(6)方言による語りや会話を活用した文章
(7)心を引きつける美しい文章(詳細な観察と描写、優れた感性・構成など)
(8)思い(メッセージ)をおくる文章
(9)その他(読者一人ひとりが、感じた捉えた魅力)

短編小説「なわばり」にみるユーモアについて
昭和62年12月、自選全集(13巻)の月報に発表された、約12枚の短編小説である。56歳のときの作品で、『短編集モザイク1 みちずれ』に収録されている。人情と世情・風情、家族の人間関係が根底に描かれ、そしてユーモアに満ち溢れた作品である。読んでいるときは思わず笑いがこみあげてきます。しかし、読後は、悲しみ(哀しみ)と怒りのようなものが、胸に大きく重く迫ってきます。
「なわばり」の構成・展開は、「起」が四頁の18行から、四頁の21行目まで。「承」の部分からユーモアを読み取るので詳細は省略。「転」は五頁の最初から、7頁の14行目まで。「結」は7頁の16行目から最後の行まで。

短編小説「ぜにまくら」にみるユーモア
平成6年、小説新潮四月号に掲載された短編小説。「短編集モザイクⅡ ふなうた」に収録されている。63歳のときの作品で、人情と世情、そしてユーモアが根底に満ち溢れた、面白い作品である。